書庫5

□くるしみは半分にしあわせは倍に
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秋の終わりごろにはもう大分腹が大きくなっていたから、もう一寸した触れあいだけにして床に就くことがいつものことになっている。
抱きつくといかがわしいことをしてしまいそうになるし、知らずに腹を圧迫して子供に何かあったら大変なので手だけ繋いで眠るというのは、少し寂しいがそれはそれでなんだか幸せな気分になれるということを高杉は二十代の終わりになって初めて知った。
妻が妊娠をしているときが尤も浮気が頻発するときだとどこかで聞いたことがあるような気がするが、そんな思考は高杉の頭の中にはきっぱり無い。元々そういうことに淡白だった土方は、妊娠させるために飲ませた薬の作用なのか性欲なんてものは全く無くなってしまって、だがそっと肩を抱かれたり手を握られたりすると嬉しそうに笑ってくれる。

土方は男だ。

それを無理矢理坂本がどこからともなく手に入れてきた薬を使って孕ませたのだ。
そうまでして子供を欲しがったのに他の女にうつつを抜かすようなつもりは無い。元々出来ないことを無理にさせるわけだから体にかかる負担は著しく目も離せない。いつ体調を崩して流産してしまうか、安定期までは元々体が丈夫で無い土方のことだし、高杉は毎日気が気ではなかった。
腹が大きくなって洋装も無理になった状態で今そんな事態になったら土方の命まで危ない。
そんな時期に不安材料なんて作る気も無いし、女と寝ている間に土方がもし破水でもしているかと思うとそんな気分になれるはずがなかった。
そんな中でも土方の仕事は一向に減らないので、ここ一年高杉は仲間のパイプをフル活用してテロをさせないように働きかけている。
大半は桂が手を回してくれたのだが、聞かん坊な奴等には直々に銀時や坂本と乗り込んで何かをしでかす前に組織ごと壊滅させたりした。警察には仲間割れだと思われているだろう。ますます危ない男だと攘夷志士からも思われただろうがそんなことは全く気にしない高杉である。
捕縛された活動家たちが、もし高杉の真意が妊娠中の妻を働かせないようにするためだと知ったら死んでも死に切れない。いや、死んではいないのだが。さんざ人も天人も手に掛けてきた高杉だが、こんな時期に更に血に濡れた手で妻を抱きしめるなんてことは、土方にも生まれてくる子供にも業を与えてしまうようで出来なかった。きっとこの事実を知ったら土方は自分は四六時中妊娠していた方が良いのではないかと悩んだだろう。しかし体にかかった負担は半端ではなく、つわりの時期は食事が全く摂れなくなって栄養剤で命を繋いだり、七ヶ月で突然倒れたりしているから多分それが平和の道だと分かっても実行は難しいかもしれない。
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