書庫5

□家族の肖像 -帰り道-
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「今日は夕飯は?」
「銀時が買い出しに行ってる。もう何か食えるだろ?」
「冷ましたらそんなに匂いも気にならないと思う…」

先日までひどいつわりに悩まされていた土方である。
元から大して食は太くなかったが、それがほとんど何も食べられなくなってしまった。マヨネーズさえ駄目というから相当のもので、最後は栄養剤で何とかカロリーだけでも摂るという荒業で命を繋いだほどだった。子供のためにも食べないといけないと分かってるのに、匂いだけでも何も入っていないのに嘔吐感がせりあがってきて、悪いと思いつつ何度作ってもらった粥を持って戻らせてしまったか分からない。
それからだ。
高杉が一時は骨の浮いてしまった痩せた手を確かめるように握るようになったのは。
少し指先に力を込めると微細な変化だというのに高杉は直ぐに分かるようで、決まって目を細めて喉を鳴らすのである。その顔を、未だ土方は気恥ずかしくて直視できないのだが。

「しかし、革靴たァ思ったよりもいいもんだな」
「あ?なんだいきなり…」

高杉は筋金入りの天人嫌いなものだから、洋装にあまり良い感情を持っていないと思っていただけに土方は首を傾げる。高杉はふと笑った。

「草履と違ってつんのめったりしねぇだろ?足首ごといれちまうからよ」

妊娠して以来、高杉たちは決して土方に下駄を履かせないし不安定な格好もさせない。
今までのたかりっぷりが嘘のように急激な体調の変化に気だるい体をひきずる土方をソファに押し込んではせっせと家事にいそしんでくれている。食事などは、つわりがひどかったとはいえ今はまだ土方が大体を担当しているのだが(でないと食卓が貧相になって腹の子もそうだが男たちの栄養が気にかかる。)その内全てをとってかわられるかもしれない。

「過保護なんだよてめェらは」
「煩ェ、一年くらい大人しくしてろ」
「体が鈍っちまうかなァ…」

するりと左手が洋装の腹を撫でるのを、軽口を叩きつつ高杉は目を細めて眺めている。
DNA鑑定の結果腹の子が高杉の子供だと分かったのはつい先日のことだった。他の男たちは落胆はしたが、次は俺の子供!と直ぐに復活した。元気なものだ。
高杉はしばらく固まったかと思うと、パァと笑った。あんなイイ笑顔の高杉は見たことがないと銀時以下三人が鳥肌を立てるほどだった。
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