書庫5

□(唐獅子)牡丹と薔薇 −白無垢−
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豪奢な打ち掛けが衣文掛けに大きく広げられている。
衣装直し用の赤と黒の柄に金銀糸で縫い取られた鶴や亀が目に少し痛い。式自体が急に言い出されたものだから、準備なんて思いもよらなかった。短髪だということで付けられたかつら、暑く白粉をはたかれた自分の顔を見て土方は本日何度目かもしれぬ溜息を吐くことしか出来ないで居る。

「おや土方さん、マリッジブルーですかィ」
「…煩ェよ」

即座に背後から掛けられた義弟の言葉に不機嫌に土方は吐き捨てる。
ブルーはブルーだ。
結婚式をやる、そこまでは良い。いやあまり良くは無いが思考の許容範囲の内ではある。それでも籍だけでいいだろと抵抗はしたのだが、高杉がとうとう聞き入れなかったのである。
だが何故自分はこんな格好をさせられているのだろかと思うと、なんだか涙が出そうになる土方である。
神前式の(ウェディングドレスは絶対お断りだったし、第一基督教では同性愛はタブーだ。カトリックでなければよいのかもしれぬが)、新婦の控え室。
総悟は先刻から後ろの椅子を前後ろに座って、にこにこしながら憮然とした土方の格好を眺めてはろくでもないことを言い出すのである。
先刻まではここに斎藤が居たはずだが、土方の白無垢姿を見た瞬間顔を真っ赤にしてしばらく意味不明な行動をとって、何か物言いたげにしていたのだが、ついには溜息を吐いて出て行ってしまった。
控え室の前に気配はあるから人払いをしてくれているらしい。行動は不明だが土方には少しありがたい。こんな格好、結局数十分後には人前に晒すわけだが、ダメージは小さい方が良い。
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