書庫5

□(唐獅子)牡丹と薔薇 −ICA−
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そのトシは、神楽と連れ立って夕飯の買い物に出ている。
矢張り組員が俺も俺もと名乗りを上げたが、姐さん呼ばわりが煩わしいのと周囲の買い物客の迷惑になるのとで振り切ってきたトシである。お一人様二本限りの特売マヨネーズに人手は欲しいが、いかめつらしい顔の男たちが十数人でレジに並ぶなんてはっきりいって営業妨害である。一人二本、神楽が加わって合計四本では一週間も持たないが、こればかりは仕方がないと諦め気味のトシである。山崎も連れて行きたかったところだが、彼はまだ入院中だ。全身大怪我のくせに一ヶ月経たずに退院してきた銀時とはそもそも丈夫さが違うのである。尤も、彼は少々丈夫過ぎるきらいがあるのだが……。

「トシちゃんは鈍すぎヨ」

一寸銀ちゃんが可哀想ネ、と神楽が呟くのにトシは憮然とする。
銀時が何故自分を構うのか、全く分かっていないトシである。銀時が接触過剰なのは何も自分だけではなく神楽にもだし、と思っているあたり銀時の苦労は尽きそうにないと神楽は思う。独身時代は高杉からのセクハラ交じりの接触にも強姦されるまで好意に気が付かなかったのだから天然記念物波の鈍さだ。
知らない方が幸せなことなど、世の中に溢れかえるほど転がっている。
ここまで天然記念物並みの鈍さでなかったら、近藤組にいたころからトシは神経症に罹っていたかもしれぬ。

だがそれでも、いささか銀時が哀れだと神楽は思う。

過日銀時は全治一ヶ月(実際は入院二週間、全治三週間だったが)の重傷を負った。高杉をかばったからだが、それもこれも半分以上はトシのためである。だがトシは、それに気が付かない。純粋に高杉の友人だから、だとか高杉組のために、高杉を守ってくれたのだと思っている。

この男は、自分に対する評価が低すぎるのだ。
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