書庫5

□(唐獅子)牡丹と薔薇 −ICA−
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「お疲れさまッス、姐さん!」
「お荷物お持ちします、姐さん!!」
「姐さん何か用事無いッスか!?」

―――――少々トシは、辟易している。


あの倉庫での班池組との一戦以来、万事がこうだ、それまでよそよそしかった組員たちが子犬のように―――――といったら、彼らはいかにも悪そうな顔をした大人たちだ。流石に子犬に失礼だが―――――何かにつけて尻尾をふりつつ纏わり付いてくるのである。さすがに母屋、夕刻になって高杉たちが帰ってくれば追い散らされるのだが、それまでとのギャップがあるのかトシは中々慣れることが出来ない。
―――――そう、このごろ高杉は夕方には帰って来るようになった。仕事が忙しいだろうに、どうしたのかと聞いても返事は返ってこない。

「そんなの分かんないのは姐御だけネ」

ほてほてと隣を歩いている神楽が呆れ顔でトシを見上げる。何だよ、と呟くと呆れが深くなっさたよような気がした。実際懐きだした組員に安堵しつつも妻が心配仕方がない高杉が牽制のために帰宅時間を早めているのだというのが分からないのはトシくらいのものだ。尤も組長―――――いやあの高杉、と言った方が良いだろうか―――――の妻に手を出すなんて勇気があるのは銀時とトシの義弟くらいのものだが。
その銀時も知らぬ内にいい見せしめになっている。トシに近付く人間は友人であろうとも足蹴にされるといういい例である。ちなみに銀時でなかったら高杉はもっと危ないことをするだろう。過激な男である。
だが夫の涙ぐましい努力に、妻は一向に気づかない。
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