書庫5

□(唐獅子)牡丹と薔薇 −止揚−
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「…何が」

愛用の煙管を吹かしながら、高杉はちらりと銀時に目をやった。
かっちりとした男の指が少し細い煙管をつまむ様子は、この男だからであろうか、どことなく色気があった。
歌舞伎町に繰り出すたびに女に群がられた過去もきっとそこに原因があるのだろう。
銀時の言う律儀とは、その昔の派手な女遊びからきている。

「夜遊びもしなくなったしさァ。銀さん独りで飲みに行くの寂しいんですけど」
「ハッ。うかうかしてるとてめェに寝首かかれるからな」
「俺がどんだけアタックしてもなびいてくれないって知ってるくせに…」

厭味な奴、と少し垂れ気味の目が恨めしそうな色を浮かべるに高杉は鼻を鳴らした。
独身貴族でいいと思っていた以前ならいざ知らず、妻帯した今ふらふらと遊び歩いているわけには行かない。
組の内外に虎視眈々と狙っている人間が大勢居ることを知っているだけに、隙を見せることは出来ないのだ。


リムジンは砂利道の前で停まった。
枯山水風に小さいながらも整えてある庭の外側は高い生垣で囲われている。その外側は組員の住居なども隣接していて、だから二人の帰りを知った組員が車を降りた高杉の前にずらりと並んで一斉に中腰を折った。

「お帰りなせぇまし組長、銀時さん」
「おぅ」
「相変わらず仰々しいったら」
「やめろっても聞かねェんだから仕方ねェだろ」

好きなようにやらせておけばいい、と高杉は素っ気無い。
高杉の帰宅がよほど遅くない限り、毎回こういう光景が繰り広げられているのだ。

これも高杉の持つ、どこか帝王然とした雰囲気のせいなのかもしれない。

反感も多く買うが、他方高杉は人を強く惹き付ける何かを持っている。
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