書庫5

□(唐獅子)牡丹と薔薇 −止揚−
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黒いリムジンが滑るようにその家の長い生垣の中に乗り入れたのは、夜も半ばに達しようというころだった。

そろそろ日付をまたいでしまうが、乗っている男の構える事務所のある町は眠らない街といわれている。
今日は少し遅い方だが少し前の独身時代なら適当に仮眠を取っていたのをわざわざ家に戻ってきたのは、独り身の気楽さとはおさらばしてしまったからであった。

アルマーニの黒スーツに眼帯、シルバー系統のアクセサリィ。時計はごつくは無いが一見して値打ち物と分かる品をさりげなく選択している。
その年でこの格好をして、ホストでないというならばでは堅気ではない。
そんな出で立ちの男は、矢張りまっとうな身分ではなかった。都内で金融業をはじめとした事業を展開する青年実業家、ということに表向きはなってはいるが、実態は闇金融にはじまり数々のきなくさい仕事に手を出している。

男の名を、高杉晋助といった。
暴力団高杉組の、六代目組長である。

「高杉もさー。律儀になったよねェ」

運転手つきの車の後部座席、車の長さに比例してスペースの広い其処に腰を下ろす男はもうひとり居た。

まだそんな年とは思えぬのにふわふわとした銀髪に白いスーツ、という高杉とは正反対の色調を持つ男だ。
矢張りこちらも一見ホストのように見えるが、横に無造作に置かれている木刀が異彩を放っている。
暴力団組長の横に座っている男がただのホストであるはずもない。

坂田銀時。
高杉のボディーガードである。あまり人付き合いをする方ではなく、正式に高杉組に入っているわけではない。
高杉とは古い馴染みだが、生来組織というものには馴染めずふらふらと好き勝手やっていたのが近頃になって急に組に身を寄せるようになった。

その理由は、組の人間なら誰でも知っている。
本人が口外してはばからないせいであろう。
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