書庫4

□In Paradism 宿木
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大体攘夷派というのはそんなに暇なのかと思いたくなるトシである。
この楼はそこそこのバーやクラブよりは価格設定は高くなっている。価格競争の結果大分値は下がったが、やはり高い。しかもトシは天神なものだからそれなりに値が張る。定職にも就いていないはずの(坂本はまた別だが)男たちが通いつめられるほどに攘夷派の資金は潤沢なのだろうか。だからといってちゃんとやれよ、と励ますようなことは言えないのだが。

「わしは今日逃したら、これから一月はトシに会えんが…」
「知るかよそんなもん」

なんとも低レヴェルな戦いは後ろでまだ続けられている。だったら四人がかりで、とならなくなったのは進歩だろうかとトシは思った。以前やられてひどく怒ったものだから、それから彼らは多人数では仕掛けてこない。怒らないと止めないというあたりが、想像力が欠如しているのではないかとトシは思う。遊び女だからといって四人がかりだなんてそんなことをされて平気なはずが無い。まさかこの男のたちの下につき従う者たちも、自分たちの指導者がこんなだとは誰も思うまい。
幕府はなんという怠慢なんのだろうか、とトシはネオンで飾られた路地裏の残光を眺めるのだ。
こんな、男なんかに入れ込んでいる奴等に翻弄されているだなんて、必死に攘夷派謙虚に走り回っている警察が知ったら馬鹿らしくなるに違いない。

そんな丸きり低いテンションで煙管でもふかそうかと思ったその背に、ガバリと抱きつく手があった。
突然のことについていた肘を崩しそうになり、頬杖をついていた顎が落ちかかってトシは思わず心臓を跳ね上げた。

「てめっ!いきなり何すんだっ!!」
「トシが決めればいいじゃん! トシ、ねェトシは誰がいい?」

ゆるく髪を結ったうなじに頬ずりする銀時に、トシは一瞬どれもごめんだと叫ぼうとしてはっとした。
ここでそういえば、この男たちのことだ、変なスイッチが入って無体なことをやりだすに決まっている。そうと分かる程度には、トシもこの男たちとの関わりも長かった。
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