書庫4

□天国にて
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神楽はまたぎくりとした新八に、何やってるネ、と溜息をつくように言う。

「いや、折角だが見回りの途中だし、」
「おまえが倒れたらトシちゃんきっと悲しむネ。いいから早く上がれヨ」

トシの名前を出されると近藤は口を噤まざるをえない。本当に今更トシは、自分などのことを心配してくれるだろうか。そんなことを考えている内にいつの間にか階上から少女の姿は消え、白い足が階段を下りてくるものだからもう観念するしかない。

「少しだけなら…」

逸りすぎた心は疲れてしまっていて、本当はもうどこにも行くのもやっとなのにトシに会いたいというそれだけで近藤は立っているのだ。
神楽は近藤の右手首に紅い髪紐がくくりつけられているのを見て目を細めた。そうして何事も無かったかのように強引にその手を引いて、楼主の居室へと放り込んだのである。


山崎と長谷川は居室で以前のように茶を啜っていた。囲炉裏にかけられた鉄瓶が、しゅうしゅうと白い蒸気を吐き出している。以前と様子もなにも変わらないのは山崎だけで、長谷川もひとまわりほどやつれて小さくなったような気がした。

「随分と疲れてますね、近藤さん」

口元にいつものように笑みを浮かべた山崎に、近藤は黙って軽く頭を下げた。どうも近藤はこの男のことが苦手だ。だが彼がトシのことを大切に思っていることは分かる。山崎は何故か新八同様に急にぎこちない動きになった長谷川を見てやれやれと出来の悪い子供を見るような顔をした。
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