書庫4

□In Paradism 終わりの始まりのおと
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トシはどれだけ悲しい想いをしたのだろう。

実は神楽は近藤と沖田が連れ立って楼に出てきた日――――――トシが連れ去られた日の大人たちの会話を盗み聞きしていた。
そのためあの晩、トシと近藤の間に何があったかを知っていて、それについては近藤を既に一発殴っている。
神楽の一発は常人のそれとは比較にもならないけれど、近藤は吹き飛ばされても何も言い訳はしなかった。自分で重々分っているからだろう。顔が変形したらトシちゃんが可哀想だから止めておく、と言った神楽に近藤は一瞬泣きそうな顔をして、そして頬を腫らしながら頷いた。
近藤は今も、駆け回っているのだろう。睡眠を削っているのか、昨日会った時は目の下に濃いクマを作っていた。

(――――――早く帰ってきてあげて、トシちゃん…)

無理だと分っていて、神楽はそう願わずにはいられない。

(じゃないと、トシちゃんの大好きなゴリラが倒れちゃうヨ…)

まだトシの香りの残る襦袢に顔を押し付けて、神楽は必死にそう願った。何度も何度も、泣いてしまいそうになるたびに我慢してきたのだ。泣いて顔をこすりつけたら、トシの香りが消えてしまう。トシの存在がどこからもだんだんと消えていってしまうのが、恐ろしかった。
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