書庫4
□In Paradiam 睡葬
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「しにた……い」
声に出せば、一層思いは明確になった。
生きている理由ももうなくなってしまった。一番大切なあの人を無残なほどに傷つけてしまったのだから。
清河に買われた時は、奥底で近藤を想えば生きていけるだろうと思っていた。現実はそんなに優しくはなくて、大鳥の優しさに縋らなければ自分の足で立つこともままならないほどになりかけたけれど、それでも近藤のためならばあの場所で自分は生き続けただろう。どんなことをしてでも、生き続けただろう。
けれど今は、もう駄目だ。
近藤を傷つけてしまった。近藤の心を裏切って、これ以上ないほど叩きのめしてしまった。
近藤は今頃、どうしているのだろう。
半分以上眠り続けているような中で、それでもトシはそう思わずにはいられない。
彼は自分の名を聞くことも、もう嫌だろう。プロポーズしたことすら葬り去ってしまいたいほどに後悔しているだろう。
自分の存在は近藤に、苦痛しかもたらさない。
それならいっそ、忘れてもらったほうがいいのだ。憎まれて、苦しめるのはそれよりずっと、ずっと辛い。
(――――――あのひとの役にも、もう立てない)
ただ傷つけるばかりだとしたら、自分は何のために生きているのか。
近藤を裏切ってしまった。そうして傷つけてしまった。
それだけでトシにはもう、死刑判決としか思えないのである。
それでも桂たちは、必死で自分を引きとめようとするのだ。あの高杉までもが繋ぎ止めようとする。
時に叱り、泣き、縋りながらまだ彼らは自分を浮世に繋ぎ止めようとしているのだ。
だがそれも、彼らを次第に疲弊させていくだけだということがトシには分かっていた。