書庫4

□In Paradiam 睡葬
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頭の芯がくらくらする。
視界が水の中にいるように、不規則にゆれてぼんやりしていた。何もかもの輪郭が曖昧にたわみ、形状を判然とさせない。それでも未だに自分が生きていることが分かるのが、トシは不思議でならなかった。

もう何日、こうしているのだろう。

冬の最中の空気はキィンと澄んでいて、少し耳が痛いような気がする。ボロボロになった身体は痛覚を失いかけていて、自分のことだというのに全てがおぼろげだ。
自分の居る世界がだんだんと曖昧になっていく。
まどろんでいるようだ。
そう、ほぅと泥のような混沌の上に浮き上がった泡がはじけるような感覚に身を浸しながらトシは思った。

いっそずっと眠っていられれば良いのに、と願って実行してみたけれどままならなかった。身体はもう他人に見せることがはばかられるほどに病んでいるというのに、それでも生きようとすることを止めないのだ。
身体とこころが離れていく。
このまま行けば、そのうちに何も感じなくなるのだろうか。いや、その前にはもう死んでいるだろうか。

どちらでも良い、とトシはひとつ、細く長い息をついた。



――――――life is sorrow……



うたが、きこえる。

細い声でずっと、誰かが歌っている。

手首には手枷が付けられていた。何度も死のうとしたからであった。室内に物がないのは、ありとあらゆるものを使って自分が死のうと試みたからだ。
何故、皆止めるのだろう。
自分が一人死んだところで誰もきっと困らないだろうというのに、自分を訪れる男たちは皆酷く憔悴した顔でそれを悲しむのである。
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