書庫4

□In Paradism 希う声
2ページ/8ページ

トシは、攘夷派の隠れ家に運び込まれた後一度意識を取り戻した。
それまでも一応目を開けてはいたのだが、呼びかけに応答はせず意識があるかどうかも分からない状況だったのである。それから一度、目を覚ましたトシはひどく錯乱して、自分の手を噛み切ろうとしたのだ。桂と坂本が押さえつけなければ太い血管を傷つけていたのかも知れない。その手当てにと、医者を呼んで今は鎮静剤を大目に投与されて強制的に夢の中に追い込まれているのだ。
トシの体は酷く弱っていると医者は言った。
肋こそ出ては居ないが、細い身体には肉が大分少なくなっているようである。毎日酷使されていたのだろう、二ヶ月の間にその肌は青さが増しているような気がすると思ったのは桂だけではあるまい。今日のところは投薬と血液採集だけだが、後日精密検査をしたほうがいいと医者は言い置いていった。あまりの細さに病を疑ったのだろう。しかし疑うべきは、違う病かもしれないと全員が思っていた。

「昨日はあんなんじゃなかった。ちゃんと俺を見て、話もできたんだ。それなのに、なんでこんな……」
「抱かれるってのも、あいつにしてみりゃあ今更な話だろう?それが何であんに取り乱してんのか、分からねェな」

吐き出した紫煙で輪を器用に作りながら高杉はそう呟く。
人が殺されるのを間近で見て、気が動転しているというのならその場で騒ぐだろう。しかし土方は、車に乗せられて隠れ家につくまので酷くおとなしかった。血飛沫を浴びても夢を見ているかのように胡乱な目で惨劇の場を眺めているだけだったのだ。
そのショックが後から出てきたというだけなのならば、それでもいいのだ。落ち着けば何とでもなる。
しかし先刻錯乱したトシは、血まみれの手首を振り回して怯えながら、幾度も近藤さん、勲さん、と叫んだのである。
苦しそうに、悲しそうに。

――――――赦しを乞うように。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ