書庫4

□In Paradism 渦の奥、その水底へ
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近藤のプロポーズから一月あまりは、沖田も近藤も酷く忙しかった。
配置や挨拶回りで莫大な労が必要だったし、しかもそれが良い方向に報われているとは到底思えなかった。

「ったく、上の連中はどうにも頭が固くていけねェや」
「そういうなよ、お上も俺たちが動き始めたらすぐに分かってくださるさ」

若い沖田が唇を子供のように尖らせてそう不満を言うのを近藤は笑って宥めるが、近藤だって我慢に我慢をこれでも重ねているのである。
人の好い近藤とて不満がないわけでは決してなく、そのために暇を見つけてはトシのところに顔を出しては酒を飲んだ。沖田もお相伴に預かるのであるが、話が決まってからというもの、この二人はそれまでより寄り添うことが多くなった。近藤は不満もあるだろうに、トシの前に出てしまうとそんなものもすっかり忘れてしまうらしく、ただ他愛もない話に興ずるだけで満足している。それで近藤坊は、十分に満たされるらしいのであった。
不思議なことに、先を誓い合ってから二人はそれまでより体の結びつきは少なくなったらしい。
トシがあまり体調が優れないらしいせいでもあるだろう。軽い風邪だと言っては少し空咳をする程度なのだが、近藤が心配をして大人しくさせるのである。
季節がらだとはいってもトシの体は心配になるほど細かったから、近藤が心配するのも当然だった。
それでなくとも、まだ若いはずの近藤は、性に関して少し控えているらしい。そういう衝動が弱かったはずがないのだがもそれでも何故かトシの横に居るうちに、何をせずとも満たされてしまうのだと言った。
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