書庫4

□Yesterday,Today
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トシの気分が保たれていたのは、せいぜい近藤がいた間だけだった。
その話があり、一夜明けたころはさすがに起き上がれるほどの体調ではなく(沖田には違う部屋を用意してもらった)近藤と沖田を布団の中から見送ったトシは、昼食を食べ逃すと神楽が起こしにくるまで死んだように眠っていたのだが、起きた顔色も死人と大差はなかった。
沈鬱になったかと思うと急に苛苛したりして、結局に何も口にせずに、格子窓にしなだれかかってはぼんやりと外の景色を眺めている。

「トシちゃん、何か食べないと体に悪いネ」
「…あぁ。」

そう何度声をかけても生返事をするだけで、口に入れるものといったらわずかの水分と、煙草くらいのものである。そっと目を伏せて仄明かりに頬を染めるトシは美しかったが、どうもこれは健康的とは言いようがなかった。

「あれ、トシさん、そんな髪紐持ってましたっけ?」

黒い髪に、銀の鈴が美しく映えている。
紅い紅い、鮮やかな色彩が宵闇の中に浮かび上がって美しかった。

紐の端にすかし銀の飾りがついている。とびっきりの上物ではなかったが、上品な品であった。鮮やかといっても歯で過ぎない色彩の組み合わせがトシによく似合っている。

「勲さんにもらった」

ぽつんと呟いた声はひどく沈鬱だ。
トシは髪飾り簪もつけたりはしないから、近藤も考えたのだろう。いや、あのセンスというものに縁がなさそうな男のことである。婚約の贈り物を選ぶに当たって沖田が優秀なアドバイザーとして活躍したのは想像しなくても分かった。
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