書庫4

□Promised World
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(――――――他の人間がこの人の体を見るのは、少し嫌かもな。)

そう思ってから、トシは思わず赤面した。自分がそんな嫉妬を覚えるということが新鮮でさえある。赤面して黙り込んだトシにつられるようにして真っ赤になった近藤も照れながら俯いてしまって、沖田がやれやれと溜息をついた。
いつまで経ってもおぼこい人だなぁ、と茶々を入れる沖田は、近藤に比べて華奢な印象が増したような気がする。まだ馴れていないのか、二人とも服に着られているという印象がどこかにあって、少しおかしかった。

「あのな…俺たち、幕府に召し上げられることになったんだ」

局に入って座布団の上にどかりと胡坐ではなく、正座した近藤がもじもじとしながらようやく言った言葉に、酒が運ばれてくるまでのつなぎにと茶を入れていたトシは急須を取り落とすかと思った。

「信じられねェでしょうけど本当ですぜ。真選組って名前までもらってます。この人が局長、あの山南さんが副長、俺は一番隊の隊長ってことになったんですぜ」

山南さんは馴染みの姐さんのところでさァ、と明里の名前を出されたトシは、ようやく忘れていた呼吸を再開させて、子供のように拙い動きで頷いた。
まさか、仕官が。
しかも名前までいただいて、仕官が叶っているとは思ってもみなかった。
それだけ今や、侍という人種は絶滅一歩手前でなんとか踏みとどまっているような状態なのである。いずれ消え去るだろうという見方はほぼ確実だった。しかも近藤は元々は農民で、それゆえ仕官の口も中々無く難儀していたことをトシは知っている。それが、玄関で刀を預けられたということは、帯刀も許されたということだろう。
侍が刀を取り上げられてから大分経つ。トシがまだ遊女でなかったころ、それこそ幕府が天人と講和をしてすぐに廃刀例が敷かれたのだ。幕府の役人でも警備を警察に任せてしまって自分は帯刀はしていないという。
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