書庫4

□In Paradism 初花
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異変が起こったのは、冬も半ばのことであった。
いや、異変というものではない。トシにはなかったけれど、少女が女になるプロセスでは必然的なことであった。少女の体の終焉の一端にはここに顕れるとされる。心をおいて体は大きくなっていくのである。神楽がその縁に立った。それだけのことであったけれど、それはトシたち変化を自覚させるには十分なことであった、

神楽は14になった。

拾われてきたのは四月の明るい日であったから、生まれた日もその日にしている。そのときはもう五ヶ月になろうかという赤子だったから(さすがに新生児を育てられるほど、長谷川は経験豊富ではなかった)ひょっとすれば彼女が生まれた日は、こんな空気の澄んだ、空が高い日だったかもしれない。
かむろというのに芸事はからっきしで、お前、そんなのじゃあ座敷に上がれないぞ、と芸事については師匠役を引き受けているトシは頭を抱えている。珍しさだけで勝ち抜ける世界ではなかった。
トシはトシとてそういう能力があるようには見えないのだが、実はある程度はそつなくこなす遊女であった。トシを訪れる客はほとんどそんなものを所望しようとしないのだれど。
座敷に出なければ客はつかない。
トシだって噂が立って自然と人が集まるようになる前は、座敷に上がって琴を弾いたり踊ったりしていたのである。
腕っ節ばかりが強くなる神楽にほとほとトシは困り果てていたのだが、顔にそれを出すことはなかったので表向き一番困っているのは長谷川だった。

「トシちゃん…」
「薬、利くか分からないからな。おとなしくしてろよ」
「んー…おなかが気持ち悪いヨ…」

微熱があるとかで、珍しく神楽はおとなしくしている。
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