書庫4

□恋の顔をした、恋に似たもの
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天神ではあるが、今はそういう位も形だけになっているようだが、この青年の値打ちが天神もというにふさわしいことは確かで、彼を買う男もそれに異を唱えるものは居ない。本人はどう思っているのかは分からないが、大鳥はこの男とひと時を過ごすうちに、ひそりと昔においてきたと思っていた少年のような高揚が戻ってくるのを感じるのである。
いつも会うごとに、初恋のようだと思う。
触れるだけで心臓が跳ね上がる。彼を抱いたこともあるけれど、その大本の心情はどこも満足することもなく、甘酸い感情と貪欲な希求心と、だがそれとは相反するしり込みがいつも大鳥の手を両側から引いて動けなくするのである。

相手は遊女だ。
自分も遊びでなければならせない。

なぜならそれが廓というものだからである。トシが間夫を作るとは思えなかったし、作るにせよ自分の手が届かないことを知っている。それに確固とした根拠はないけれど、そういうものなのだと――――――分かっているのである。
実際距離を見誤り、近づきすぎて無様に追い払われた人間を大鳥は何人も見知っている。しかしだからといって欲は収まらぬ。触れたい、抱きたい、といった男の欲に、汚しくない、大事にしたいという初恋にも似た崇拝が歯止めをかけようとしている。触れたい、という思いが大事にしたい、という願いに反するものなのかはさておいて、大鳥は心中繰り広げられるジレンマにがんじがらめになっているのである。

「…君を身請けしたいと言ったら、僕を笑うだろうか?」

いつもより少し大目に入った酒につい口を開いた瞬間に飛び出した言葉に、遊女をはぴたりと弦を止めた。
ゆるゆると流れていた音が急に途絶えて、余計に大鳥はやるせない思いに捕らわれた。
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