書庫4

□InParadism 色彩(カラァ)
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不思議な目をした男である。

土方―――――と、本名はいうらしい男のことである。
高杉はそんなもの、最初の座敷一回きりした使ったことがない。二回目からは通称のトシ、という方で呼んでいた。
だから高杉は、トシのことを本当は何一つ知らないのである。
寝るようになってからはいくつか彼の癖らしいものも知った。トシの人となりというものも、全てではないが知っている。しかしそれは経験側なのであって、つまり高杉は自分と出会う前のトシのことは何も知らないのだ。

当たり前だ、高杉は超能力者ではないのだから、知り合う前のことが分かるはずもない。しかしならばと高杉は、トシ本人や周囲から過去のあれこれを聞きだすようなこともしなかった。興味がなかったわけではない。
否、無かった―――――とも言える。
どうでもいいと高杉は最終的に判断した。今のトシ以外のことを知ったとしてもそれが高杉のものになるかといえばそんなはずがない。トシの過去に遡って高杉は存在することは出来ない。
だから高杉は、トシの昔に対してなんら興味を抱かないのである。
いや、抱けなかった。そうは分かっているが。高杉本人はそれを認めなかった。自由に出来ないから無かったことにするなどと、子供の我侭みたいだとは決して見ないふりをしながら。

結局高杉は自分の経験したトシ以外のトシを知らぬ。
トシもわざわざ昔を語ったりはしない。語るようなものではないと思っているのか、それとも興味が無いのか、―――――どちらであるかは分からない。トシは何かにつけて興味関心というものが薄いのである。そういう物が無いのではないかとも高杉は思う。
彼は多分生とかいうものにも、死とかいうものにも、とどのつまり自分というものに対しても興味が無いのである。きっと。
ただその目が、不思議な色を有する目だけが、本人の意思とは無関係に他者をひきつけ関わらせようとするのだった。
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