書庫4

□In Paradism オアシス
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虐げてくれ、お前のその脚で

そう言われたことは一再ではない。そういう趣味が有るのか、と内申うんざりとしつつも、トシは無言で従った。

何が気に入られたのかも分からない。
自分にはおかしな客がつくことが多かった。高杉然り、白夜叉然り、この清河のそんな一角でしかない。

何が楽しくてわざわざ幕臣が違法売春宿などに来るのか、清河の趣向を満たしてくれる店なら他にもあるだろう。
そう考えるあたり、トシはまだ自分の商売をどこか他人事のように見ているらしく中々辛辣である。

それが能面のような無表情から棘のように突き出して独特の雰囲気を作り上げているのだが、それをが高杉の嗜虐心を、銀時の所有欲を、そしてきっ清河の被虐趣味をもくすぐっていることにトシは全く気が付いていないのである。

「……旦那さんには、こんなところでなくていい人がどこかにいらっしゃるんじゃないですか」

そう聞いたことが確か一度あった。
清川は底が知れない顔をして、肯定も否定もしなかった。

妻は居たらしい。

居たということは、つまり今は居ないという事だ。死別したか、離縁したか逃げられたか。

その女がたいそう脚の美しい女だったかは知らないし、この自分の足を今熱心に愛撫する男にそんな余話を付け加えてやるつもりもないのである。

分厚い舌は、まるで生き物のようにくねってふくらはぎをくすぐっている。ねっとりと爪先の、かけたところなどひとつも無い桜貝のような爪と、肉の間に唾液を差し込まれくすぐられる感覚は、どうしようもなく嫌悪を感じてしまう。
いつかこの爪先からぐずぐずに煮とかされれその舌の上で転がされて喰われてしまうのではないかと、甘さの欠片もなければ埒も無い想像をすると、ぶるりとまた恐怖心を感じてしまう。

どこか清河は、ひとという気がしない。
あんまりな感想ではあったが、この男の異常性は化け物―――――の、ように思えてしまうのだ。
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