書庫4
□In Paradism オアシス
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白い足が着物の裾を割って伸ばされている。無駄な肉などひとかけも無い足はまさに脚、というべきものであった。
女のように優美かといえばそうではない、矢張りそれは男の脚であったが、だがほっそりとした彫刻のような美しい脚である。
白いその脚の甲に、男の厚い唇が這っている。
脇息にけだるげに腕を持たせかけながら、トシはぴんと脚を伸ばして白と黒との光景を眺めている。
明かりの落とされた室内には格子窓から注ぎ込まれる翳りかけた月の光しかない。
色素の抜けたような白と、濃い影の織りなす黒。
片足、伸ばしたそこはぬらぬらとむしゃぶりつく男の唾液に濡れている。
なめくじが這っているような錯覚を覚え、ふるりとトシは脚を僅かに震わせる。男は低く引き連れたような声で笑う。トシは無言で捕らわれている脚を一寸引くと、その爪先ぜ男の額を軽く押しやった。
男は矢張り奇妙な笑い声を立てただけであった。
男の名は、たしか清河といった。
幕臣である。それ以外のことは、詳しいことはトシは知らない。いつからかここに通うようになっていた。トシを何故だかひどく気に入って、来るときは先に人をやって予約させるという気の入れようである。
トシのそのほっそりとした脚を抱え上げ支え持つようにした清河は赤黒い血色の悪い唇から分厚い舌を差し出しては、トシの足の甲に走る静脈をたどるようにうねうねと舌をうごめかせる。
清河はトシをあまり頻繁に抱くことはしない。
その代わりこの脚を、何時間も舐めたりさすったりして、日によってはその視覚的刺激だけで果ててしまうことも有る。
体は楽だがあまり精神的に相手をしたくない男である。
金回りはいいし、二刻ほどの時間を我慢していればそれで良いのだから性急に体を求める他の男たちよりよほど良い客だと思われているかもしれぬが神経に悪い。