書庫4

□In Paradism 似たもの同士
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難しい相手なんだよな、と枕代わりに顎を置いている腕からは頭を離さず、視線だけ今しがたやってきた遊女に向けると、彼の綺麗に整えられた爪先が音もなく障子を閉めるところだった。

裾を少しも乱すことなく歩み寄ってくる。
その目的地が自分ではなく、その傍らに置いてある文机だということを知ってはいたが、軌道が大きく逸れる前に銀時はその腕を捕まえた。

見下ろす切れ長の目が少し、歪んだ。

土方―――――いや、この世界では苗字なんてものは意味を持たない。
だからこの楼に通う男たちはみなこの遊女のことをトシ、と呼ぶ。今またトシ、と銀時に呼ばれ、嫌そうにこちらを見下ろした遊女は酷く不機嫌そうな顔をしたが、掴まれた腕を振り払おうとはしなかった。

「今日はお前、機嫌悪いね」

宥めるような猫なで声で銀時はトシの表情を伺う。

「今日も、の間違いだろ」

掴まれた反対の手を伸ばして文机の上から長煙管を一寸指の端でつまみあげるのを、捕まえた手を引き寄せて腰を抱けば抵抗も無く銀時の膝上に転がり込んでくる。
顔を埋めたうなじからは、石鹸のにおいがした。
遊女にこんな健康的な香りは不釣合いなのではないかと銀時は笑った。

この男は―――――一応、トシは男だ―――――煙草を吸うくせに香を焚くことはしないから、触れた瞬間たまに罪悪感を感じる、とは銀時の戦友である桂の言葉だ。
遊女だということを忘れそうになるのだと言う。

そういう甘いことを言っているのはあいつらしいが、その桂が気にする匂いの違いというものに、逆に銀時はどうしようもなく欲情する。

作り物の香りを纏わないこの男は酷く淫靡だ。

だがふと回想とはいえ、桂の顔を思い出して銀時は急に忌々しくなる。

桂が嫌いというわけではない。
むしろあの堅物を地でいく性質は、面白いとも思うし長年連れだって戦場を駆け抜けてきた男だ。愛着も湧いている。
だが、その桂と今手中でおとなしく体重を預けている遊女もまた夜を共にしていると言うことを思い出すと、好意は変質してしまう。

眼前に無造作に晒された白いうなじに銀時はカプリと歯を立てた。

こら、と小さく咎める声は、どこか本気ではない。
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