書庫4

□In Paradism 似たもの同士
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「お前か」

障子の向こうで自分を待っていた男を見るなり、遊女が零した言葉は酷く素っ気無かった。格子の填められた丸窓の際、張り出した桟にもたれ座り込んでいた男は、それはねぇんじゃないの、と頬肉を少し吊り上げて見せた。

男は坂田銀時という。

全身白尽くめの男だった。
時々この楼に連れ立ってくる高杉も派手な着物を着ているが、この男は違う意味で目立つ。

二人ともよく捕まらないものだと、トシは首をすくめた。
警察というのも大概税金泥棒だ。あの二人が居なかったらもう少し自分は気楽に過ごせる。

「トシは変わらないねぇ」

溜息を隠そうともしないトシに銀時も思わず苦笑を零す。
吐く息はもう直ぐ夏が来ると言うのに白く濁って、薄暗い部屋の中一瞬だけ浮き上がって直ぐに冷え消えていった。

自分に対するトシの態度は初めて会った時から一寸だって変わったことはない。

三度目までは触れさせてもらえない、とまで高い女(女という表現自体間違っている気がする)ではないはずなのだが、もう数える気も失せるほど通っていると言うのにトシの態度は軟化しないのだ。
体は繋げているけれど、それ以上の侵入を許さない。
強固な高い壁がその間にそっと築かれていて、それに気が付かない客は我が物顔で深部に触れようとして手ひどい拒絶を受けるのだ。

銀時はそんな無様な真似はしない。
距離を正しく測り、壁の向こうに居るトシを閉ざしてしまわないように、じわじわと距離を詰めていく。

だから、なのかもしれない。

トシが銀時に多少気安い顔を見せてもそれ以上踏み込ませないのは、他の男には無い銀時の危険性を察知しているのかもしれなかった。
この一見へらへらとしたしまりの無い男の中に、他の男には無い狡猾さがあることを知っているのだろう。

評価してくれるのはありがたいけれど、と銀時は複雑に笑う。それでますます遠い存在なのだったら、気が付かないただの男であった方が何倍も幸せだ。

そうは思うものの、その難易度の高さに余計にそそられているから、自分も相当に馬鹿な男だ。
そう思っている。
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