書庫4

□In Paradism おぼれるうみ
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トシは新八の疑問が分かったのだろう、眉根を寄せて

「高杉だよ」

と呟いた。

高杉晋助。

馴染みの客の1人で…攘夷志士だ。その内でも最も過激といわれる男である。

あぁ、と納得して、手をうちかけたところで早く湯の用意をするネこのメガネ!という叱咤が飛んだ。

慌てて飛んでいく新八に苦笑すると、神楽がその自分の脇の内に腕を抱え上げ滑り込んでくるのに瞠目する。どうやら支えてくれようとしているらしく、それには不十分な小さい体にトシは微笑してその桃色の髪を撫でた。


神楽は捨て子だ。


晩夏のある日、長谷川屋の前に産着にくるまって捨て置かれていた。

親は分からぬ。手掛かりになるようなものは何一つ無かった。
桃色をした髪からもどうやらちゃんとした人の形をしているものの、純粋な人間でないということが分かる。
天人との混血は今でこそ少しずつ増えてはいるがそのころでは珍しい例だった。

母親は、多分商売女だろう。

育てられないから、せめて女の子なら代わりに育ててもらえるかもしれない。そう親が考えたのだと思っておいた方が気が楽だと呟く長谷川の横から、未だ遊女ではなかったトシはその腕に抱えられた赤ん坊を見上げていた。

楼の女たちは思いの外喜んだ。

皆子供を持つことは許されない女たちである。
情夫との子が欲しいだろうに、余程幸運な女しかそれは叶えられることは無い。
不健康なところで悪いねぇ、と言いながらに哺乳瓶を咥えている赤子を愛おしそうに眺めている女たちの目は少し悲しそうだったが、それ以上に優しいものだった。
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