書庫4

□In Paradism おぼれるうみ
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カラリと音を立てて開いた玄関に目をやった瞬間、新八は床を拭いていた雑巾を取り落とした。

壁に手をついて草履を脱いだ白い足が赤で汚れている。一寸の肯定さえも辛いのか小さく呻いた青年に、

「トシちゃん!!」

一緒に居た少女の方が悲鳴を上げた。

「トシちゃん!!誰にやられたネ!?」

大丈夫アルか、なんてどう見ても大丈夫じゃない足取りに慌てて駆け寄った少女に、トシは少し表情を和らげて大丈夫だ、とぽつりと呟いた。

「悪ィ、心配。風呂用意してくれ…」
「全然そんなのは構いませんけど、それんっ」

土方の細い足からぽたぽたと滴っているのは血だけではない。それを自分達に、ことさら神楽に見せたくなかったトシは眉根を寄せて乱れた裾をおざなりだが整える。

何が行われたかなんて明白だ。

だが、相手は誰だろう。

トシは遊女だが男なのだ。
色町を歩いていたとはいえ今は朝である。早い時間帯にこんな事件が起こるのは珍しい。
それにトシは、近藤を大門まで送っていったはずだ。トシが誰かを送っていくなんて初めてのことだが、それでは近藤が無体を働いたのだろうか。

いや、それはないだろうと新八は思いなおす。

人のことは分からせないが、あの男はそんな性質とも思えない。第一こんなことをしなくても近藤にならトシは進んで体を差し出すだろう。会って二日だというのにあの親密な空気に声をかけることが出来ずに盆を置いて下った昨日を思いだす。
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