書庫3

□月下相問
2ページ/6ページ

「久しぶりだな、こうして話すのは…」
「ああ…髪を、切ったのか。折角綺麗だったのに」

本当に悔しそうに後頭部を確かめるようにザラリと撫でられて、土方はまぁなと呟くとわずかに俯いて桂のしたいようにさせてやる。洋装には似合わないとばっさりやってしまった髪だが、髪は元々霊力の表れだから化生姿に戻れば自動的に伸びているのだが。
しかし今となっては、土方が化生姿になることはほとんど無い。今だって土方は半化生のアオザイではなくて黒の単姿だ。土精である日土方は土からの影響を受けやすい。木精である桂は大地から力の素を吸い上げる植物たちのように星からエネルギーをもらう効率はいいのだが、土方はやや効率が悪いために酷く苦労することになるのだ。

「…人を沢山、斬っているようだな」

控えめに桂は唇を開いた。お前もな、と土方が切り返すと切なそうな顔をして、そっと唇を噛み締めてしまう。

「お互い、汚れちまったもんだなぁ」

途切れた言葉を拾い上げて土方はほろ苦く笑った。
夜風が軒から吹き上げてくる。黒い着流しの裾と白い包の裾が対のようにひろひろと翻った。生ぬるい風だ。土方たちのような化生が棲むには厳しい瘴気を含んだ風だった。それでも昔棲んでいた都よりは随分ましだ。今はもう滅多に戻ることのない古い都は、今はどうなっているだろう。化生の大半は異界に、棲家から離れられない精霊たちは死に絶えた。自然の摂理とはそういうものだ。生き行けぬものたちはひっそりと土に還っていく。
土の精霊であり北辰の眷属である土方は、そんな彼らの祭司の役目を果たすこともあった。
だからこそ、桂は懊悩する。

「お前が人を殺すとは思わなかった」

北辰の眷属である土方は死星といわれる泰山府君の星に連なるものである。だからこそ、いっそう死に対しては厳格だ。

「そんなにしてまで、近藤を護りたいとは思わなかった」

これでは責めているようだ、と桂は声に出してから思った。だが割り切れない思いがあるのも確かだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ