書庫3

□望(コネタより)
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そう、彼は人前で表情を崩すことはなかった。
微笑する。悪戯な顔もする。仏頂面にもなれば指揮をするときは怒鳴りもした。
だがどれもどこかこの男の本当の貌ではないように銀時は感じていた。
どの顔もどこか本気ではない。
ふわりふわりと現実を、いつも簡単にあしらいかわしては、どこか遠くからこの世を目を細めて眺めている。
子供と親のような関係に少し似ている。しかもその子供の対象は広大すぎて、どこまでがとは決定できないのだ。
彼にしてみれば、この世の全てがままごとのように見えているのかもしれないとすら考えたこともある。

その土方は、何故か銀時にだけは冷たい。

あしらうということをしないのだ。いや、出来ないのかもしれぬ。彼が大将と仰ぐ近藤を叩きのめしたのは自分だし、その件では実際二度目に会ったとき銀時は土方に肩を切り裂かれた。後々治療費が送られてきたが、土方自身はついぞ謝りには来なかった。

徹底的に嫌われているその彼に、何故自分が気を向けているのか、銀時自身不思議で仕方がなかった。

顔のせいだけではない。
銀時は衆道者ではなかった。だからいくら綺麗な男であったとしても、そんなに気になるはずが無い。彼の嫌悪が伝染したせいで意識が向くのかとも思ったが、何故か銀時の裡に埋め込まれたのは嫌悪ではなかった。

(あの睛のせいだ―――――)

理解できない理由を、銀時は土方に押し付けている。

ふとした瞬間に、背中に視線を感じることがある。

嫌なものではない。そういう気配には、昔の経験から嫌というほど慣れている。だがその視線は、穏やかでどこか懐かしむような色をしているのだ。
振り返ったその先に居たのが土方だったときには、銀時も驚いた。何かの間違いではないのかと思った。
だがその時も土方の睛は―――――あの稀有な双眸は、酷くさみしそうな、悲しそうな色を一瞬瞬かせて―――――当然のように、次の瞬間憮然とした色に戻っていったのだ。

その目を見た瞬間、胸腔の奥で何かがうごめいた。今まであることすら知らなかった―――――奥底で、ひっそりと澱のように沈殿し、縮こまっていたはずのものが突如、狭い内を吹き上げて爆発した―――――そんな気がしたのだ。
一瞬の静から動への転換に眩暈すら感じた。だがそれに蓋をするように、一瞬起こった熱を逃がすかのような冷たい目を土方がしたものだから、銀時は知覚できそうたと思ったそれをまんまと逃してしまったのだ。
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