書庫3

□望(コネタより)
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彼は自分を見るとき、何故か一瞬ひどくさみしそうな目をする。


+++望+++


初対面の印象は覚えていない、テロの最中だった。巻き込まれて何がなんだか分からぬうちに斬りかかられていた。
それが土方という男との、出会いだった。ばたばたしていて混乱していたし、その後は爆弾まで持ち出されたおかげで彼のことをまじまじと見ている暇はなかった。
あの時点で爆弾をほうりだした銀時は、テロリストの線は薄いと考えられたのか、その後万事屋共に連れて行かれたのは警察だった。取り調べも彼が行ったのではなかった。
ここしばらくの出来事のうち、一番危険なことはそれだったが、日々はめまぐるしく流れていく、終わったことは容赦なく後へ後へと押し流されていく。まともな仕事をしているわけでもないというのに、いやそれだから余計にだろうか、銀時は忙しかった。だらだらしていることも多いが、暇で退屈、と認識する前には何やかやと日常は転覆するのである。
だから二回目に会ったとき、銀時は土方のことを覚えていなかった、名前を知ったのはそれよりもまた更に後のことだから、名前も適当に呼んでしまってそれが何故だか後々尾を引いている。

多串君―――――こと土方は、銀時に冷たかった。

二回目でいきなり斬られたし、ふと声を掛ければ煩ェ寄るなこっちは忙しいんだこの天パ、と一気に来たし、ヴァリエーション豊富な罵倒語は尽きることは無かった。綺麗な顔をしているのに勿体無いといつも銀時は思う。顔に騙されて近付いたらとんでもない棘を急所にぐっさりと突き立てられる。それじゃあ自分も騙されているのかと思うと不快にもなった。実際土方にしてみれば、そんなつもりは欠片ほどもなかったであろう。

彼の内心は誰にも覗くことはできないのではないかとすら思われた。

土方は酷く美しく、そしてまた不思議な男だった。

異人のような淡い色をした虹彩は日の光に透けて刻々と色彩を変えていく。対して常人よりも大きく開いているとからかわれる瞳孔は黒々としてどんな色さえ飲みこんだ。不健康なも今にも透けてしまいそうな白い肌を強固とすら思える黒服に包んだすらりとした立ち姿は、色町を歩けば女どころか男も放って置くまい。いやむしろ気圧されするのかもしれなかった。

有るべきパーツがあるべき場所に収まった、というにふさわしいその貌はいつもゆったりとした微笑に占められている。
ゆったり引き上げられた深紅の唇の端は優美で艶っぽいけれど、優しくは無いのだ。

不思議な男だ。

何度も銀時はそう思っている。
時折金に近い茶の髪をした少年と歩くときは、刀を向けられたりバズーカの銃口を向けられたりしているにもかかわらず、悪童のような顔をしてさえいるのだ。そして最後には本当に子供をあやすかのようにその茶髪を宥めてしまうのである。実際沖田という男は、未だ少年の域を出きっていない年頃ではあったが。
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