書庫3

□南天(コネタより)
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土方は死というものを良く知っている。

泰山府君の星である北晨、その眷属だからこそ滅多に自ら殺界を開くことは無かったが、だが死というものは土方の身辺には良く転がっている。
いつか来る日だということを知っていた。
生きている限りそれから逃れることは出来ない。既に千年以上を生きている土方も、いつかはそうなる運命からは逃れられぬ。

銀時が逝ったのは、冬の寒い日だった。

胸元に当てた耳が、その心臓が奏でる歌を聴けなくなって、土方はその時が来たのを知った。
苦しくは無かったであろう。
一度目を開けて、遺言のようにひそりと土方にひとこと言付けてから眠るようにして彼は召された。
大往生といっていい年だった。

出会ってから五十年以上が経っていた。





「山崎、ひぃちゃんを一人にしないで」

まだ少女といっていい外見のその人の言葉に、狐狸精は黙って頷いた。

神楽が正確にいえばひとではないことは、早い内に分かっていた。彼女は出会ってから五十年以上が経っていたというのに、ようやく十代の後半になろうかという外見をしていた。定春はそれ以上大きくはならなかったが、矢張り普通の犬なら四度は死んでいる年月を飛び越えている。
夜戸との混紡だから、とこのときばかりは彼女はちょっとばつが悪そうに告白した。東の方に住む水神の一族である。神と人との混血ならば長寿に違いなかった。
姿は少女でもそれ相応の年月を生きているのだ。銀時についてさまざまな世界の裏側を見てきた彼女は人と結婚はしなかった。恋のひとつはしたかもしれないが、彼女は黙して語らない。銀時よりも一回り年少だった沖田はこの夏の終わりに亡くなっていた。
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