書庫3

□南天(コネタより)
1ページ/9ページ

一度、だけ。



そう言えたら、何かが変わっただろうか。


+++南天+++


年を経るごとに肉は衰え行き、内にある魂の情動とはつりあわなくなっていくものだ。
心は何時までも少年と笑うその男の美事な銀髪は、いつしか本当に年を経たそれになった。その横で化生は相変わらず佇んでいる。もう彼に抱かれなくなって、大分経っていた。

ヒトのオスは、メスに比べれば生殖能は長くもつほうだがそれも既に老人という年になれば限界になる。かつては老いたところなど全く想像もつかないといっていたものだが、時間は平等で残酷だ。
銀時は何も言わずに土方が傍にあることを受け入れた。
全く姿かたちの変わらぬ化生は自分の衰えを教えるだけのものだというのに、それでも突き放すことは無かった。
優しい男、だったのだろう。
瘴気の渦巻く都にとどまり続けるのは体が大分慣れたといっても土方のような精霊は、精気を必要とする。かつて出会ったころのように大量にそれを必要とするようなことは無かったが、月光浴だけでは補いきれぬ。口付けだけでも、土方はもう銀時から精気を奪うことは無かったから、時折森をまかせた狐狸精に手伝ってもらっていた。
知っていただろうに銀時は何も言わなかった。
そうしてまでとどまらずとも良いと、言わなかった。

新八は流行り病で逝った。

彼の姉もまた弟と前後して臥せりまもなくして亡くなった。家を興す願いは叶わなかった。

高杉は殺された。

呪に関しては銀時の知り合いということで使われなかったのだろう。何かと恨みを買う性質であったが、祟りはしなかった。彼はこの生に、そんなにも執着しなかったのだろう。ただふらりと魂魄がこの屋敷を訪れて、掠めるように土方に口付けてから消えていった。

近藤は四十になるかならぬかという内に没した。
健康に関しては申し分ないと思っていたのに、突然倒れてそのままだった。彼が若いころには宮中へと馴染むのに大層苦労をしたが、その後の出会いの数々のおかげか、いや人柄のゆえだろう。葬儀には大勢の人間が訪れた。
良い人間き長くは生きられぬのだと、土方はひとこと呟いただけだった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ