書庫3
□朱白
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「それで汝れはどうするつもりなのだ?森には戻らぬのか?」
「時々は顔を見せるさ。どっか行っちまうわけじゃねぇんだ、山崎は過保護なんだよ」
宗は愉快そうに目を細める。700年以上年上の男に庇護欲を感じる男などそうは居るまい。
土方は訝しげに宗のつむじを見下ろした。
「……何も言わねェなんだな、あんたは」
「言っておるではないか」
「…いや、もうちょっと叱られるもんだと思ってたから」
お終い、と言って細い女のような手は髪から離れていく。直ぐ横に腰を下ろす青年は戸惑っているのか、伺うように視線をそっと宗に向ける。
宗は口の端をゆっくりとつり上げた。
「汝れが決めたことだからの。いくら後見だったといえど、口を出して良いこととそうでないことがあるというもの」
「じゃあ、つまりは反対なのか?それとも…」
「汝れの心次第であろうに」
くつくつ笑う度にに空気がさんざめく。きまり悪そうに俯いた土方に、ようやく宗は笑いを喉の奥に収めて微笑んだ。
「…妾はどちらでもないよ。だから反対もせぬ。どんなに先があろうとも、人の子全てがあの公方のようではあるまいし。あの橋渡しが相手であるなら、そう悪いとも言えぬ」
勿論全ての人の子があの橋渡しのようだとも思うてはおらぬが、と付け足すと横で大きく土方は息吐いた。