書庫3

□この息を奪って
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銀時は少々、やさぐれている。

家に戻れないからである。数日前、沖田に呼び出されたと思ったら陰陽寮につめこまれている。今まで放り出していた雑事が積もりに積もって、そろそろ片付けろという命令が出たのである。元々人付き合いの悪かった銀時のことだから、参内も出仕も面倒くさがっていたせいで必要最低限の仕事すら溜め込んでいたのである。沖田が使いに出されたことからしても陰陽頭が相当怒っているのが伺える。近頃は副業のような依頼も増えて参内しなくとも食べていけるのだ、が新八にどやされてしぶしぶ出仕した―――――そういうわけである。

問題児ではあるが、実力は当代きってと噂される銀時である。監視の意味合いからしても首にはならないだろうが、無位無冠では流石にご先祖様に顔向けできないかなぁ、ということで大人しく缶詰にされていたりする。

「…土方、どうしてっかなぁ…」
「旦那、口動かす暇があったら手ェ動かしてくだせェよ」

苛苛しているのは銀時だけではない。
監視兼自分の滑込んだ仕事処理のために一緒に缶詰にされている沖田もだ。ハイ、と書簡を手渡してくる。書類を巻いた巻紙はもう山になりそうだ。たいした役職でも無いのに、なんでこんなに溜まってるのさ、という銀時だが沖田の無言の圧力に負けてしぶしぶ手を動かしだす。それだけサボったということを言いたいらしい。
仕事嫌いの沖田がここで一緒にカンヅメされているのは、単に他の人間と一緒にしても銀時が逃げるからだ。

銀時は適当に書簡に目を通しながらも、家―――――というより土方のことが気になって仕方が無い。

先月の一件以来、急速に接近した(と銀時は思っている)件の黒狐はますます可愛くなった。美人で綺麗で色っぽいのは元からだが、それに加えて可愛らしさが出てきて、もうどうしたらいいの―――――どうしたらも何も無いわけだが、銀時は日々気が気ではない。
何しろ先月の件で他の貴族にお披露目してしまったようなものだ。知り合いのうちでもこの沖田をはじめ、坂本やら本体ごと押しかけてきた桂やら、新八までもが土方には好意を抱いている。体の関係(まぁ軽い契約もあったのだけれど)まであったくせに銀時の好意にはまったく気付いていなかった土方だ。彼らの好意にしても分かっているとは思えないが、危ないに決まっている。
その上、この間はあの高杉とまで知り合ってしまった…というよりも、口説かれてしまったのである。
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