書庫3

□妖精舞姫
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けれど土方は周囲の様子も気にすることはなく、銀時を半ば閉じかけた目蓋の下淡色の目で捉え、

「…眠い」

とくりかえすだけだ。

眠かったら寝てなさいって、というものの子供のようにゆるく首を振ると、何を思ったか両手をついて奥間からいざり寄り、胡坐をかいた銀時の膝に ぽてん、と頭を預ける始末である。
未だ精気が足りていないのだろう、頭上から生えた隠せていない耳がひくんと動き、 直ぐに伏せられる。

うわぁ、と膝枕状態に新八は思わず声を上げた。

好いた女に会うにはまず詩を詠み合い夜半にそっと忍び込むような風潮なのである。
他人のそんな場面など当然見たこともない。
ころりと銀時の膝の上に頭を預けて板間に寝そべった土方の単は更にはだけて袷がめいっぱい開いていて、既にに右肩が袖から抜けかけている。

あらわになった無駄な肉のついていない脇腹にも花は容赦なく散っていて、銀時は慌てて袷を直そうとするというのに、当の本人は気にする様子もなく銀時の腹に鼻先をすりつけている。

「ひぃちゃん可愛いアル」

向かいで飯をかっくらっていた神楽が土方を見てそういう。
新八よりもおそらく幼いだろうのに、眼前で繰り広げられている光景に顔を赤らめるわけでもない。頭から黒い耳 、腰の少し下あたり人間では退化してしまった尾てい骨から同色の尻尾を生やし銀時に懐いている姿は、猫が飼い主に甘えているようにも見える。
銀時が飼い主などといった ら土方は容赦なく狐火でも何でも出すだろうし、そもそも彼は猫でなく狐なのだが。

「本当にどうしたの土方…具合でも悪ィのかよ」
「…だるい」

そりゃああれだけヤれば身体もだるいだろう、と思ったが子供二人の手前口に出すことは出来ない銀時だ。
腰なら自分だって使いすぎてだるい。最初のころは筋肉痛にまでなった。

何かあったのか、とそれでも膝の上から退こうとしない土方に銀時がもう一度聞くと、面倒くさそうに淡色の目が膝の上から銀時を見上げた。
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