書庫3

□妖精舞姫
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土方は朝が遅い。

夜中ずっと起きているからだろう。
彼が狐狸精だということは坂田家 に住む全員が知っているが、せいぜい狐耳と尻尾が生えている程度で傍目には人間となんら変わらないため、夜行性ということは一見してもぴんとこない。
銀時はその意味を身をもって知っているが、こちらは人間なので寝過ごすといってもある程度の時間になれば起きだしてくる。
閑古鳥気味とはいえ仕事があるのだ。
陰陽寮から呼び出されたらいくら寝不足で頭死んでますといっても参内しないわけにはいかない。

一家の大黒柱は大変である。

それに比べて食事を銀時で摂っている土方の一日は変則的だ。
他の家族よりも大分遅れて彼の一日は始まる。とっくに昼を過ぎていることも珍しくは無い。
土方が家に来てそろそろ半月ばかりになるから、新八も神楽もこの奇妙な同居人の性質にはすっかり慣れてしまって、元々万年床気味だった銀時の寝所には入らないようにしてくれている 。

子供とは順応性が高いものだと、ひとり寝不足の銀時は何食わぬ顔で膳を囲む同居人たちを眺めて思った。

今日も身体がだるい。健康な証拠だ。主に土方の食欲が。

だがその日、件の狐狸精が起きだして来たのはまだ朝の時間帯であった。
単一枚を肌にひっかけるようにして、帯もまともに締めていない。

「…眠い」

それなら寝所で寝ていればいいというのに、ふらふらとおぼつかない足取りで銀時たちが食事をしている部屋に現れたかと思うと、奥の襖にもたれかかった。

凹凸の少ない土方の喉元には昨日の名残が咲いている。
未だそういうことには初心な新八が頬を紅くして俯いた。
片膝を無造作に立てるものだから白い腿が半ばほどまで剥きだしになっている。その内側にも紅い後がついていて生々しい。新八でなくとも赤面しようというものだった。

「土方…子供いるんだからそういう格好しないで…」

口ではそういうことを言いながらもしどけない土方の姿を見せたくない銀時である。
いくら新八が初心な少年だからといって土方の色気に当てられて平気でいられるはずがないことは、夜毎その色気に翻弄されている銀時が一番知っている。
昨日もさんざん吸い取られたと言うのに、新八だけでなく自分の子供も反応しそうで困る銀時だ。

まだまだ俺も若いねぇ、なんて感慨にふけっている場合ではない。
これ以上したら本当に健康を害する恐れがある。
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