書庫2

□そして、やさしいキスをして
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「トシが来てくれたら出席するって子が多いんだよ〜」
「…志村もそう言ったのか?」

呆れ声の土方に必死に近藤はこくこく頷いた。
いいダシされたものだと土方は嘆息した。

志村妙。
近藤が追い掛け回している女だ。
どちらかといえば土方と同じく、こういうイベントごとには興味もないクチだったから、土方が出席しないことを見越して近藤のアタックをかわす手段に利用されたのだろう。

近藤に深々と頭を下げられ、土方は困惑した。
クリスマスパーティそのものに興味も無い土方だが、このままでは会場に足を踏み入れた途端女子にまとわりつかれるような気がする。最近の主なイベントごとは体調不良を言い分けにして回避していたから変なところで希少価値がついてしまったのかもしれない。かといって、近藤の頼みを無下には断れない土方だ。
どうしようか、と困り果てていると横合いから助け舟が出された。

「近藤さん、止めときなせェ。土方さんが出たら出たで、女子たちァ皆そっち行っちまいやすぜ。志村までいっちまったらどうするんです」
「そ、それは困る!困るが…」

頬をリスのように膨らませながらなおもヤキソバパンを詰め込みつつ、沖田は肩を竦めて土方を見やる。目で感謝する土方だが、余程志村とその周囲の女子に言い含められたのか、近藤はなおも渋っている。
やれやれとばかりに沖田は続けた。

「それに土方さんには、怖い保護者がついてますからねェ。もみくちゃにされようものなら何されるか分かりやせんぜ」
「銀八つぁんか…」

近藤はたちまちしょんぼりとした。寮監の機嫌を損ねたら罰として何を申し付けられるか分からない。銀八に限って内申を盾にとるようなことはないだろうが。
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