書庫2

□そして、やさしいキスをして
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冬である。

期末テストが終わってしまえば、学生たちは冬休みしかもう考えることはない。土方たち三年生には一応受験というものがあるが、エスカレーター式私立高校ではそんな心配をするだけ無駄というものだ。学力の面で土方に心配されていた近藤も、中学生剣道全国大会三位という結果のおかげで無事に推薦が決定した。三年生は部活もなくなってしまったことだし、余計に冬休みの計画立案に余念が無い。

丁度終業式がクリスマスイブだということで、その日は男女寮合同でクリスマスパーティーが開かれることになった、らしい。
らしいというのは、土方がそのことを決めていたはずの学級会をほとんど寝倒していたからで、なおかつそういうイベントごとに全く興味がないためクリスマスの楽しみを力説する近藤の話を右から左に聞き流していたからだった。
夏ごろは眠ろうとしても全く眠ることは出来なかったというのに、冬になった途端にどこででも眠れるようになってしまった土方である。冬眠か何かかと間違えるくらいに、どこでも寝ようとしてしまう。いくら眠っても足りないのだ。幸いテストも終わり、教師もさほど今の時期は上の空の生徒たちを引っ張っていこうという熱意は無いので、見逃されているのだが。

さて、どうやらクリスマスパーティがあるらしい。

日本人の大半がそうであろうが、こと銀魂高校の生徒が企画することなのだ。ミサを行い、賛美歌で主とイエスを讃えるなんて内容のはずが無い。平たく言えば合コンのようなものだ。勿論間違いが無いように教師が形だけとはいえ監視につくのだが、冬休みを控え開放的になった生徒たちと四月から高校へと進学する三年は、短い間の恋を求めて張り切るのである。まことに健全な中学生の本能、というべきであった。

そんな本能全開の人間が、土方の周囲にも一人いる。

「頼む、トシ!一緒に出てくれっ」

土方は眼前で手を合わせる近藤をまじまじと見やった。
近藤は、女にモテない。一度惚れたら構わずアタック、という姿勢が原因で突っ走っては殴られたり蹴られたり、一度としてマトモなお断りすらされたことは無いのだがそれでも懲りない恋多き男だ。叶ったことは無いが。
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