書庫2

□初恋物語
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「土方って、女みてェなツラしてるよな」

そう土方の陰口を叩いた相手と取っ組み合いの喧嘩をして、銀時は初めて土方の容姿に気が付いた。おかしな話だが、それまでは二人して泥まみれで遊びまわっていたし、土方は気の合う一番の友達だったけれどまじまじと顔を見詰めることなどなかったのだ。
さすがに本人をじっと見詰めるのは憚られたのでその日家に帰ってきて、アルバムを開いてみて銀時は溜息をついた。坂田家のアルバムには、幼馴染の写真もばっちりと残っている。しわしわの赤ん坊だった銀時を不思議そうに眺めている目のぱっちりとした赤ん坊。オムツも取れていない子どもが並んでケーキで口の周りをベタベタにしている写真。七五三のときは確か双方の母親が面白がって二人して子どもを女装させたものだが、銀時は一目で男の子だと分かったのに土方は女の子と言われても違和感がない。
でもこれはたった五つのときの写真だ。もう五年も前なのだ。
そう思ってわずかにドキリと跳ね上がった心臓を宥め宥めしてもう一回眺めてみたのだけれど、やはり土方は可愛かったし、今もそんなに変わらなかった。
いや、そこらの女の子たちより可愛いかもしれない。一寸癖のある黒髪も、一緒になって一日中遊びまわっているというのに日焼けしない白い肌も、赤いさくらんぼのようなつやり美味しそうな色の唇も、ぱっちりとした目もクラスメイトの女の子たちよりずっと可愛いのではないか。
そう思って銀時は首を振った。でも土方は男の子なのだ。一緒に風呂に入ったことも一再ではない。間違えようがなかった。
だがそれから少しはどうしても意識してしまって、銀時は一寸土方にぎこちにない態度をとらざるをえなかった。土方にすぐに気が付かれて、何かあったのかとむくれながら問いただされご機嫌をとるのに必死になりながら、銀時は自分の中で何かが変わりかけていることにほんの少し、恐怖した。
この居場所は心地が良い。
別の形にしてしまったら、踏み込んでしまったら、今の形ではなくなってしまうのではないかと思うとそれ以上踏み込むことは出来なかった。
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