書庫2

□保健室事変
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「土方は何もしてねぇっていってるぞ」
「…ごめんなさい」

やはり少し、思い当たる節があったのだろう。今までからすれば割りあい素直に謝罪が来たが、どうやらそれだけでは終わらないらしい。硬い声で少年は男に呼びかけたのだ。

「先生」
「ハイ」
「今日俺、戻りませんから」

同時にきゅ、と握られる白衣の袖に、高杉はくらくらと思わず眩暈を覚えたのである。
つまりそれは、ここに泊まっていくということなのであった。

閉める直前だったんだけどな、と頬をかいてとりあえず高杉は握られたままの白衣の裾を見下ろした。何があったか知らないが、銀八が土方を怒らせるのは珍しくない。だが土方がこんなにも頑なになるのは初めてだった。
それからも何度か、扉の外からは銀八が呼びかけてきたのだけれど土方はまるきり無視してしまっている。
よほど怒らせたのだろうな、とぼんやり思いながら自分用にコーヒーと土方用にココアを入れてやって、高杉はまるきり傍観の姿勢である。
白衣の裾を捕まえたまま、無意識なのだろう、小さな子供みたいにココアを淹れる間、土方は高杉の後ろをついてきた。

かわいい。
十五の少年に言う言葉かは分からないが。

銀八はそのうちに黙ったのだけれど、気配はそのままだから持久戦をするつもりなのだろう。合図の立てこもり犯は手ごわいらしかった。
ということは、自分は人質になるのだろうか。
あまりの似合わなさに思わず高杉は喉を鳴らして笑う。
向かいで子供みたいに両手でカップを抱えた土方がきょとんとして首を傾げた。

もう夜に近い。
土曜だから少し校舎が閉まるのも早い。試験週間ではないが、それも近いから自主的に休みにする部活も多い。
校内は静かなものだ。
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