書庫2

□やさしいきすをして。
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そう知ったところで動き出せるはずもなく、ただ銀八は自分を甘やかした。
怖かったのだ。これ以上思い知らされるのが怖かった。土方が自分を映さなくなった。それ以上その意味を知りたくなかった。生徒の内での自分の位置づけを、初めて銀八は怖いと思った。

そうこうしている内に夏休みが来た。
規則正しい生活をしろよ、とやる気のない調子で銀八は休み前最後のHRをこなした。
とはいっても私立で約半分の生徒が寮生なのだから、食事を食いっぱぐれたくなければ嫌でも規則正しい生活を送る羽目になるのだ。部屋付という条件に誘われてこの学校を選んだことを銀八は後悔していた。自動的に寮監、と言うことになった自分の部屋は一階で、そして外出する生徒を管理室から声かけすることになっている。
着替えを狭いロッカールームでするのが嫌なのだろう、剣道部の生徒は道着のまま出かけるようになった。その内に居る土方とも、銀八は休みに入ったというのに毎日顔を合わせる羽目になる。袴姿のまま彼を練習後無理矢理犯したこともあった。だがその時怯えていたはずの彼の表情は、今の胡乱げな目に押しつぶされてもう銀八には思い出せなかった。

全国中学校剣道大会。
彼らの事実上引退試合が近付いている。


+++


「トシ、お前今日は休め」

部屋から着替えて出てきた幼馴染に、近藤は苦い顔でそう言った。
足取りはしっかりとているが、どう考えても体調不良は隠せていない。
彼が一学期の終わり、しばらく体調を崩し食事を受け付けなくなって以来、近藤と沖田はできるだけ土方に付き添って食事を摂るようにしてきたが(それでなくとも今までほとんど三人は一緒だったのだが)、土方の食事量はその後目に見えて減った。しかも部屋に戻った後、吐いているのではないか。そう言いだしたのは沖田だった。個室が与えられているため、本当かどうかは分からないが、成長期に必要な栄養が足りていないのは確かだった。
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