書庫2

□うそつき
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授業が始まったせいか、人気のない廊下をそれでも人目に付かぬように特別教室棟を通る。いつもの化学準備室を目指す間、土方の身体の震えは大きくなっていった。
上気した頬に朱が更に上っていく。細い腕は震えているのに、銀八のシャツの裾を掴む指先は白くなるほど力が入っている。拙い歩みは遅く、焦れた銀八が抱えるように腕を回すと怯えるように土方は震えたが、吐く息は情事の後、次第に落ち着いてもいいはずだというのに次第に熱く早くなっていく。

誘われているようだと思った。
それが、今は腹立たしい。


+++うそつき+++



乱雑な室内に入った途端、銀八は細い身体をソファの上に無造作に放り出した。くたくたになった生地の上にぺたんと両膝をついて座り込んでしまった土方は、荒い息を吐きながら銀八を不安そうに見上げる。これ以上何をされるのだろうという恐怖がその目に浮かんでいた。可哀想だが、それと同時に熱に浮かされたその目は今や銀八を煽り立て、そして怒りを誘発させる効果しか持たなかった。

一人椅子を引いて、銀八は逆向きに座ると顎をしゃくる。

「掻き出して」
「…え…」

何を言われたのか分からなかったのだろう、銀八の声はさらに温度を下げた。

「高杉の、まだ入ってんでしょ?掻き出してって言ってんの。多串君の指で」
「…つ、う…」

やっと言われたことが分かったのか、たちまち熱に責め上げられる潤んだ瞳に涙が盛り上がった。無表情にそれを眺めると、がん、とやおら銀八は机を乱暴に蹴り上げる。
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