書庫2

□病理
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―――あのころ。


夏が来ていた。


蝉が窓の外で喚いていた。
短い命を抱えて焦がれているのだと土方は思った。

教室には自分ひとりしか居ない。
皆授業が終わると我先に教室を飛び出していってしまった。

土方が一人残ったのは日直だったからだ。
どのページを見てもまともにつけにられていない学級日誌を律儀につけつつ、今日の授業を思い出す。
化学の授業があった。相変わらず担任が滅茶苦茶なことを言っていた。テスト週間に入ったばかりだというのにこんなので良いのだろうかと土方は困惑しつつも、生来不器用で生真面目なものだから内職も出来ず黒板に描かれる少なくとも化学とは関係の無い語列を書き写していた。
多分受験のときにこのノートだけは使われることは無いだろう。
銀八がどんなテスト問題を作るのかと思うとそらおそろしくさえあった。想像もできない。

そうだ、テスト週間に入ったのだった―――

今更のように気がついた事実に土方はゆるく眉根を寄せて、指の間に挟んだシャープペンシルをくるりと回した。
今朝の剣道部の朝練がテスト前最後の練習で、顧問に赤点だけは取るなよと釘を刺された事実も、今思い出すまですっぽりと記憶の中から抜け落ちていた。健忘症でもないというのに。
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