書庫2
□しろいあやまち。
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真っ暗い部屋の中、それよりもさらに黒い輪郭がゆっくり近づいてくる。
逃げ出したいといつものように思ったけれど、かなわなかった。だって普通に古くなった塩酸の瓶が転がっていたりするのだ、この部屋は。ヌシである銀八には何処に何があるかわかっているのだろうが、いつも引きずりこまれなければこんな場所来たくもない土方に分かるはずがない。
「多串君さァ」
「……な、に」
「今日泣きそうな顔して見てたよなぁ」
―――――五時間目。
こわばった肩を掴まれ、そのまま背後のソファに転がされた。先に乗っけていた鞄はさっさと奪い取られて床に放り投げられている。埃っぽい匂いが立ち上って、土方は囁かれた言葉とあいまって顔を真っ赤にした。
くすくすと子供みたいな笑い声が振ってくる。
こんなに暗いのに、銀八には見えているらしい。腹の上に加減した体重がのしかかってきて動きを奪われる。瞳孔開いてるのに見えないの、といわれて、余計なお世話だと怒鳴ったらまたくすくす笑われた。
「近藤があんなことになって、」
顎を掴まれる。
何も見えないのに目を反射的に瞑ったら笑いながら矢張り唇が降りてきた。
「悲しかった……?」
キスの合間、呼吸と共に囁かれる。
言い返そうとする前に狙ったかのように薄く開いた唇から侵入してきた。歯列の裏側を執拗になぶられ、ぞくぞくと背筋に悪寒に似た感覚が走っていく。身じろぎしたけれどソファがぎしりとしなって余計に状況を教えるだけだった。
指先が撫でるように降りてきて、詰襟のホックをはずす。
一つ一つボタンをはずしていく指が流暢だ。余裕が与えられるはずも無く、なぶられているだけの土方の手は銀八の白衣をつかんで耐えることしか出来ないというのに。