書庫2

□しろいあやまち。
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「多串君、一寸付いてきて」

それだけ言って銀八は自分はさっさと出て行ってしまった。
六時間目も終わり、掃除も適当に済ませた。後は帰るだけというその寸前に狙ったかのように顔をだした教師に土方は眉根を寄せる。

もう教室には数人しか残っていなかった。近藤が五時間目の銀八の授業であんなことになったから、剣道部は自主的にお休みだ。近藤が居ないとどうも締まらないのだから、だらだらと練習するくらいなら思い切って休みにしたほうがいい。

「多串君」

先刻前の扉から顔を出した教師が後ろから呼んだ。
はい、と短く返事をして、土方は肩掛け鞄に机の上に出していた教科書を放り込んだ。


連れてこられた場所は化学準備室だった。
銀八のねぐらだ。理系の院生でもあるまいに、何故か寝袋まである。乱雑さはすさまじく、危険物指定の薬品が無造作に放り出して有るからヌシである銀八以外は立ち入る人間は殆ど居ない。時々お登勢教頭が怠惰な教師を叱りに踏み込む程度だ。
中央に何故か置いてあるソファになれた調子で鞄を放り投げて、土方は眉根を寄せた。
殆ど人が入り込まないこの場所に、土方は大分馴染んでいた。毎回引っ張り込まれているためだけれど。

「…今日は、何」
「いつにもまして不機嫌だねお前」
「…別に、いつもこんなもんだろ」

オレンジ色に染まった空が四角い窓に切り取られている。
目を眇めて睨みつけるように見た銀八の顔は逆光で表情が分からなかった。きっといつものように死んだ魚のような目で、口角だけ吊り上げて自分を見ているのだろう。

つくづくむかつくやつだ。

吐き捨てるような言葉は咎められなかった。
代わりにジャッ、と勢い良くカーテンが引かれる。室内が急に真っ暗になって土方は肩をこわばらせた。

普段はカーテンなんて引かないくせに!
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