書庫2
□夏草の向こう
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「あと、煙草消してください」
道があまりに悪いから、それ以上のことは言えない。
本当はもっと色々言いたいことは有ったのだけれど、下手にまくし立てたら舌を噛んでしまいそうだ。
坂田が左手に挟んだ煙草は大分短くなっていて、後ろに煙が流れてくる。自分の吸わないメーカーの煙草は煙の味が苦かった。
強すぎる太陽の光が露出した腕から、襟元から水分を奪っていく。半そでシャツの土方に対して、トレードマークとなった白衣を今も着込んでいる坂田は暑そうだ。
土方の汗は蒸発して幾ばくかは清涼感を与えてくれるだろうが、白衣の内側にこもった汗はサウナ効果しかもたらさない。
それでも風を切って走る自転車の両脇に流れる少し黄ばんだ白衣がまるで羽根のように見えて、土方は目を細めた。
見える風景が全部眩しいから、自分はきっと眩暈に撃ち落されるのだ。
自転車の荷台から両手を投げ出して倒れるのは痛そうだったから肩に置いた手に力をこめる。手を預ける駄目教師の肩は自分のそれよりも少し広かった。
―――ふとした瞬間に、目の前にいる教師が自分とは違うのだということを知る。
嫉妬を交えた感情だ。
直ぐに伸びると言われた身長は確かに伸びてはいるけれど、未だ大人である坂田との間には差があった。
このままのペースで伸びたしとても、将来抜けるかどうかは怪しいところだ。