書庫2
□夏草の向こう
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風を切って走る。遠くに。
でこぼこのアスファルトにガタガタの車輪がぶつかってサドルが跳ね上がる。
夏の風が真正面からぶつかって髪を巻き上げていく。太陽がひどくまぶしい。目を細めるようにして道の先を睨みつける。
―――空が青い。
+++夏草の向こう+++
突き抜けそうな空、とは今日の空みたいなことを言うんだろう。成層圏まで突き抜けそうな空だった。
夏がもう直ぐ盛りに差し掛かる真昼間、夏至を過ぎた太陽は南でまだ勢力を保っている。
随分長い間光線に熱せられた黒い髪がそろそろ火を吹くのではないかと土方は心配する。それでも正面からぶつかってくる風はぬるかったけれど、気持ち悪くはなかったのでペダルを漕ぐ男には聞かなかった。
どこまで行くんですかと。
―――もう随分長いこと堤防沿いの道を、オレンジのママチャリに二人乗りして走っている。
「青春は青い春って書くんだけどさ―――」
直ぐ下から聞こえてくる寝ぼけたような声に土方は黙って空に向けていた視線を下ろした。
「どう考えたって、青いのは夏だよね―――」
「前向いて漕いでください」
太陽の光を反射して銀色がちらちらと瞬いている。
網膜を焼かれて土方は目を細めた。それでも二人して転ぶのは嫌だったので、先刻まで自分が見ていたものを眺めているらしい教師に釘をさす。
二人して同じものを眺めているだなんて、テレビドラマでもやらない子供の恋愛みたいだ。