書庫2

□雨の生まれる場所
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「悪いな」

給湯室から出てきた桂がコーヒーを渡し際に呟いた。怪訝そうに見上げると俯いた先、前髪に邪魔されて目が見えない。

「いきなりなんだ」
「こんな遅くまで手伝わせている。生徒会役員でもないのに」
「……別に、人手が足りないんだろ」
「でももうずいぶん暗い」

見上げた先の空が重い。時計はもう直ぐ六時を指す。

運動部の夏季活動時間は七時十五分までだから、これでもとりたて遅いということにはならないのだ。

「帰りが大変だろう」

俯いたまま言う桂の真意が読み取れない。
確かにこの少年は妙なところに律儀だが、これだけの量を桂一人でこなせというのも酷な話だ。
二人の背後の机にはまだどっさりと部活動の活動報告書だとか、追加予算申請書だとかが山になっている。

会計は昨日までこれにかかりっきりだった挙句ぶっ倒れたとかで、元々人手の少なかった生徒会は現在機能不全に陥っているらしい。
土方は生徒会役員ではない。
やってみたらどうだ、と言われたこともあるしこの桂にも誘われたのだが、どうもそういう仕事は好きになれそうに無かった。

元来大勢でにぎやかしくするのが苦手な土方にとってもくもくとデスクワークをすることは苦にならないのだが、連絡をとりあって協調するという部分に馴染みきれないだろうという確信があった。
だから今まで話が持ち上がっても固辞してきたのだが、今日はあまりにも桂の顔色が悪くなっていたので、教室で声をかけたのだった。
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