書庫2

□雨の生まれる場所
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ぽつりと窓に当たって水が撥ねる。
やがてしたしたと音が連続するようになって、目を向けた窓は簾をかけたようになっている。

空が暗い。とうとう梅雨に入ったらしい。


+++雨の生まれる場所+++


「電気を点けようか?」

隣で書類をめくっていた桂が聞いて、

「いいだろう、二人だけなんだし。窓際は結構明るいぜ」

ペンを指の間で回しながら土方は答えた。
校舎の一階にある生徒会室の窓からはテニスコートが見える。放課後の今は活動していた運動部員が強くなってきた雨に道具を抱えて倉庫に駆け込んでいくのが見えた。
直ぐに地面はぬれて使い物にならなくなるだろう。先刻まで少しはあった光は完全に隠れて室内は薄暗いが手元が見えないほどではない。

湿気がぺたりと背中を圧迫して、土方は広げたシャツの胸元をはたはたと揺らした。

張り付く生地が気持ち悪い。

「入梅だな」
「面倒くさい」
「今日はもう終わりにしよう。コーヒーでも入れる」

いつの間にか手元の書類は終わったのか、桂が直ぐ横まで来ていた。
寄越された書類をこちらもぱらぱらとめくって最低限の捺印を確認する。後は担当教師に提出するだけだ。

部屋の奥に作られた給湯室に長髪を揺らして細い背中が消えていく。やたらと生徒会室が広いのも、給湯室なんていうものがあるのも、元はここが職員室だったからだ。
クラスが増えるに従い教員も増えたので、今は北側に建てられた新校舎の二階に新しくスペースが確保されている。それに伴い旧校舎は実験室や自主学習室等常時使用はされない部屋で固められた。

放課後はひどく静かだ。

新校舎の向こう側にある校庭には運動部員がまだ片付けている最中だろうからまだ人がいるが、こちらはそもそもそんなに人が来ない。
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