書庫2

□水の底
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塩素の匂いがする。更衣室からプールサイドから。
まだ昼を過ぎていないので水が冷たい。
つま先を浸して思ったけれど直ぐに飛び込んでしまう。ちゃんと準備運動しろよ、とあの怠惰教師が今更な注意をしてきて、くせっ毛の大人しくなった頭を水面に出した。



+++水の底+++



「どうして坂田先生がここにいるんですか」
「銀八って呼べっつったろ、多串君。それはおめー、今日が最高気温三十六度の予報だとお天気お姉さんが言っていたからだ」
「多串じゃありません。土方です。あの天気予報よく外れますよ」
「俺は信じる。でもってプールに入る」
「……そうですか」

お天気お姉さんの予報なんて単なる口実で、ただ遊びたいだけなのだ。
夏休みが近くなったプールなんてのはもう皆遊びたい放題で、さぞかしや楽しそうだろう。

ただ監視員のはずの教師がプールに入るのは問題がある。
誰かが足をつったときにどうするつもりなのだろう。

「そん時はあのゴリラが何とかするだろ。多串君が溺れたら俺が世界新記録出して助けてやるから安心しろ」
「ゴリラじゃありません。近藤先生です。でもって俺は土方です。先生に助けられるくらいだったら自力で助かります」
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