書庫2
□怠惰な午後
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ヨレた白衣の胸ポケットに煙草の箱を見つけてまた眉根が寄った。授業中に喫煙する教師を土方は坂田以外に知らない。
最初から気に入らなかったわけではないといえば嘘になる。
嫌いではないが絶対に好きになれない人種だという自覚があった。
何を考えているのか分からない。同級の幼馴染とおなじ印象と不安感がある。どう動くか予想もつかないというのは気持ちの良いことではない。
「起きてください。俺もう行かないといけないんで」
また雷落とされますよ。そう言っても眼下の男は「うーん」なんて小さく呻いているだけだ。
思わず土方は一発殴ってやりたいという欲求を覚えたが息を吸って黙殺した。
高校受験間近。暴力沙汰を起こしている暇は無い。
こめかみに浮いた血管をなだめて肩を揺さぶる。触れていただけの手はいつの間にかヨレた白衣に食い込んでいた。
「せんせい」
「もう少し」
待って、と気の抜けた声で言われて思わず肩を掴んでいた手を離しかけたが叶わなかった。
いつの間にか伸ばされた手が手首を掴んでいたので。
「起きてたならそういってください!!」
「だって勿体無いし」
多串君が律義で良かった。
どこからひねり出したのかも分からない名前でそう呼ばれるのはいつものことだ。それに対して土方が眉根を寄せて沈黙するのも。
「跡、出来るよ」
先刻まで突っ伏していた机に今度はもたれかかって、結局怠惰な姿勢のまま。先刻胸ポケットに放り込まれていた煙草の箱から一本取り出して咥える。
シュ、と短い音の跡から紫煙がふわりと立ち上って、土方は益々眉間の皺を深くして掴まれた手を振り払った。
「…教頭先生が呼んでました」
「多串君を?」
「何で俺が呼ばれるんですか!」
「何かやらかしたかなと思って」
一本どう?と述べられた箱を押し戻す。自分が何かやって呼び出されるとしたら原因はきっとこいつだ。