書庫2

□怠惰な午後
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「先生」

呼んでも返事が返らない。
こんな気味の悪い場所に一人きりなんて勘弁してほしいというのに、実験用の机に突っ伏した教師の頭はぴくりとも動かない。

困った。

もう直ぐ次の授業が始まってしまう。

「先生、起きてください」

室内にいるのは二人きりで、そのうち一人が意識がないとしたら現実ここにいるのは一人きりも同じである。
理科実験室、の準備室。
薬品の詰まった棚や古くなった備品の奥になんだかよく分からない生物のホルマリン漬けがあったりして土方は眉をひそめた。
光にあてると変質する薬品があるためここは年がら年中分厚いカーテンが引かれている。薄暗い室内でどうしてこの教師はすやすやと眠っていられるのだろう。

こんな薄気味悪い場所。

眼下で揺れる白い綿毛のような頭を見下ろしてそう思った。

チャイムが鳴るまであと少ししかない。


+++怠惰な午後+++


「坂田先生、教頭先生が呼んでます」

ためらいがちに肩に手をかける。
あまり他人に触れるのは好きではない。
そのうえこの男はいい加減このうえなく、土方からしてみればまるで駄目な教師そのものだ。どうして教員試験に受かったのかも分からない。そのときだけ死んだ魚のようだとうわさされる目を輝かしたのだろうか。
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